大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)4121号 判決 1968年5月09日
原告(反訴被告) 有限会社 松宮封筒社
右代表者取締役 松宮幸治
被告(反訴原告) 川村産業株式会社
右代表取締役 川村哲
右代理人弁護士 宇佐美幹雄
同 宇佐美明夫
同 高橋悦夫
同 大田直哉
宇佐美幹雄復代理人弁護士 浅岡建三
主文
一、本訴につき
(1)被告は原告に対し、四七、二九〇円およびこれに対する昭和四二年一二月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(2)原告のその余の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は被告の負担とする。
(4)この判決(1)項は、かりに執行することができる。
二、反訴につき、
(1)反訴被告は同原告に対し、一八、三六〇円およびこれに対する昭和四二年八月一二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(2)反訴原告のその余の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は反訴被告の負担する。
(4)この判決(1)項は、かりに執行することができる。
申立て
一、本訴
被告は原告に対し、二五三、五八〇円およびこれに対する昭和四二年一二月二日(損害発生後)から支払いずみまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。
との判決ならびに仮執行の宣言。
二、反訴
反訴被告は同原告に対し、三六、七二〇円およびこれに対する昭和四二年八月一二日(反訴状送達翌日)から支払いずみまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。
との判決ならびに仮執行の宣言。
争いのない事実
傷害物損交通事故発生
とき 昭和四〇年九月二〇日正午ごろ
ところ 大阪市東住吉区桑津町三丁目一四一番地先交差点
道路状況 幅員約八メートルの東西道路と幅員約六メートルの南北道路が交差する十字路で、交通整理は行なわれておらず、左右の見通しは悪い。
事故車 (1) 被告(反訴原告、以下被告という)所有の軽四輪貨物自動車(六大く一五三号、以下被告車という)
(2) 原告(反訴被告、以下原告という)所有の軽三輪貨物自動車(三大阪あ七六五号、以下原告車という)
運転者 (1) 被告の従業員訴外谷田新太郎(業務執行中)
(2) 原告の従業員訴外野口久美男(業務執行中)
受傷者 訴外野口久美男
態様 北から南進してきた原告車と東から西進してきた被告車が交差点内で衝突し、ために訴外野口が受傷し両車体が破損した。
争点
(原告の主張―本訴の請求原因)
一、被告の責任原因(民法七一五条)
訴外谷田は時速約四〇キロメートルで被告車を運転西進し、本件交差点手前約一三メートルの地点にさしかかったとき北から南に向け交差点に進入した原告車を認めたにもかかわらず、なんら危険回避措置をとることなくそのまま交差点に進入し、ほとんど交差点を渡り切った原告車の左側面に自車を激突させたものであるから、道交法三五条一項の定める先入車優先に違反した過失により本件事故を起こしたものといわなければならない。
二、原告の損害 計二五三、五八〇円
(1) 原告車大破による損害 一六五、〇〇〇円
原告は昭和四〇年六月初めに二四五、〇〇〇円で原告車を購入したが、事故直前まで同車には「きず」一つなく新車同様であったうえ、走行距離もようやく五、〇〇〇キロメートルで使いなれた調子の最もよくなったときであった。しかし購入後三ヶ月半経過していることを考慮し、その事故直前の価値を二〇五、〇〇〇円と算出した。そしてダイハツ本社員により破損車の下取り価格を鑑定させたところ四〇、〇〇〇円と評価されたので、結局その差額が事故による原告車自体の損害となる(修理費見積額六五、〇〇〇円の限度で被告認)。
(2) 訴外野口受傷による損害 一四、五八〇円
同人は全治一〇日を要する左示指・右肘部挫創の傷害を受けたので、雇主の原告において治療費二、五八〇円および休業一〇日間の諸手当一二、〇〇〇円を支払った。
(3) 営業上の損害 二八、〇〇〇円
原告車の破損および運転手野口の受傷により、封筒製造業を営む原告にとって最重要な配達機構がほとんどまひ状態となり実損は多大であるが、とりあえず一日四、〇〇〇円として七日分を計上した(一五、〇〇〇円の限度で被告認)。
(4) 証拠保全費用 四六、〇〇〇円
被告は本件事故の責任につき双方五分五分だと主張するため、事故の唯一の証拠物件である原告車は、被告がその非を確認するまで解体修理をなすわけにはいかず、事故による損傷の姿そのままで他所へ預けてある。その料金は一ヶ月二、〇〇〇円であり昭和四二年八月まで二三ヶ月分を要しているが、原告の右措置はやむをえないことであるから、右料金も本件事故による損害というべきである。
(被告の主張―反訴の請求原因)
一、原告の責任原因(民法七一五条)
訴外野口は本件交差点に進入するにあたり、幅員の明らかに広い東西道路の安全を確かめ徐行等して優先進行権のある被告車の進行を妨げないようにすべき注意義務があるのに(道交法三六条二、三項)、これを怠り被告車が交差点に入ろうとしているのに気づかず、そのまま進行した過失により出会いがしらに衝突したものである。しかして、訴外野口は右のように道交法三六条二項の義務を尽くさなかったのであるから、たとえ被告車よりも先に交差点に入ったとしても、道交法三五条一項の先入車優先権を主張することはできない。
二、被告の損害 計三六、七二〇円
(1) 被告車右前部破損修理費 二七、七二〇円
(2) 右修理期間中休車損 九、〇〇〇円一日三、〇〇〇円の代車賃借料 三日分
証拠
≪省略≫
争点に対する判断
一、本件事故の態様
≪証拠省略≫を総合すると、つぎの事実が認められ、反対の証拠はたやすく信用しがたい。
(1) 訴外谷田は時速約四〇キロメートルで被告車を運転し、東西道路左側中央寄りを西進して本件交差点にさしかかったが、そのままの速度で漫然同交差点に進入したため進入直後すでに北から進入南進中の原告車を右斜め前方至近距離に発見し急ブレーキを踏みハンドルを左に切ったが及ばず、交差点中心より南側において自車右前部を原告車左側ドア付近に激突横転させた。
(2) 訴外野口は時速約三〇キロメートルで原告車を運転し、南北道路中央を南進して本件交差点に進入しようとしたとき、東側道路から交差点に接近中の被告車を左斜め前方に認めたが、同車が一時停止し自車に進路を譲ってくれるものと考え、やや減速したのみで交差点に進入したところ、被告車も進入してきたので危険を感じアクセルを踏んで加速し衝突を避けようとしたが及ばなかった。
二、両者の過失と原、被告の賠償責任
以上認定の事実にもとづき判断するに、本件交差点は前記のとおり交通整理の行なわれていない左右の見通しの悪い場所であり、東西道路は南北道路より明らかに幅員が広いのであるから、訴外谷田は道交法四二条により、訴外野口は同法三六条二項、四二条により、いずれも徐行のうえ交差点に進入すべき義務がある。しかるに、訴外谷田は時速約四〇キロメートル、訴外野口は時速約三〇キロメートルで交差点に進入したのであるから、いずれも右徐行義務を尽くさなかった過失があるといわなければならない。さらに、前記のような道路状況、両車の速度、衝突地点等から推すと、原告車が本件交差点北端に達したころには被告車も交差点東端まであと数メートルの地点に迫っていたものと認められるので、このような場合に原告車がそのまま交差点に進入すれば広路から交差点に進入しようとする被告車の進路を妨害することが明らかであるから、原告車としては道交法三六条三項によりただちに急停車の措置をとるなどして被告車の進行を妨げないようにすべき注意義務があり、この義務に違反して交差点に先入しても同法三五条一項による優先進行権を取得しえないものと解すべきである(もっとも、道交法三六条四項が同法三五条一項の適用を排除していない以上、同法三六条三項は広い道路と狭い道路の双方から「同時に」車両が交差点に進入しようとする場合に関する優先順位を定めた規定であり、異時進入の場合は常に先入車が優先すると解すべきもののようでもあるが、右三六条三項が同法三五条二、三項と異なり、交差点への進入につきことさら「同時に」という文言を用いていないことからすると、必ずしも右のように解すべき理由はないと考えられ、右三五条一項と三六条三項の関係をどのように解すべきかは一個の問題であるが、結局広狭両道路から交差点に進入しようとする双方の車両の速度、交差点までの距離、交差点の広さ等により、交通安全の見地から右法条のいずれを適用すべきかを相対的に定めるほかはないと解される)。しかるところ、原告車の運転者野口は自車に優先進行権があるものと誤信し、被告車の前面を通過しようとしたのであるから、右の注意義務を尽くさなかった過失があるといわなければならない。
そして、以上の各過失が本件事故の原因をなしていることは、前認定の事実に照らし明白であるところ、前記両運転者の過失の程度はほぼ同じと認めるのが相当であるから原、被告は各使用者として、たがいに相手方に生じた後記損害の五〇パーセントを賠償しなければならない。
三、原告の損害 計九四、五八〇円
(1) 原告車破損による積極的損害 六五、〇〇〇円
≪証拠省略≫を総合すると、原告は昭和四〇年六月初めごろ原告車を新車で購入したこと、売買価格は月賦で約二五〇、〇〇〇円であったこと、その後本件事故に至るまで日曜を除き毎日封筒配達の営業用に使用していたこと、本件事故のため左側ドア、フロントウインド、右前照燈後部付近が相当広範囲に破損したことが認められる。
原告は、事故直前における原告車の価値を二〇五、〇〇〇円、事故直後の下取り価格を四〇、〇〇〇円として、その差額が事故による損害であると主張するが、この点に関する原告代表者本人尋問の結果はたやすく信用しがたいのみならず、所有物が破損された場合には、これを修理しても原状に復することができないとか、原状回復は可能であっても修理費が破損直前における物の交換価格を上回るなどの特別の事情がないかぎり、通常はその修理費相当額が賠償すべき積極的損害になるというべきであるところ、右認定の破損の程度からただちに右特別の事情があるとは認めがたく、他にさような事情を認めるに足りる証拠はないので、原告車の破損による積極的損害は修理費相当額としなければならない。しかるところ、右修理費見積額が被告の自認する六五、〇〇〇円をこえると認めるに足りる証拠はないので、結局原告車破損による積極的損害は六五、〇〇〇円ということになる。
(2) 訴外野口受傷による損害 一四、五八〇円
原告主張のとおり(≪証拠省略≫)
(3) 営業上の損害 一五、〇〇〇円
被告の自認する一五、〇〇〇円をこえる損害を認めるに足りる証拠はない。
(4) 証拠保全費用 認められない。
≪証拠省略≫によると、被告が本件事故の責任を争うので、原告は事故の証拠を残すため原告車を解体修理せず一ヶ月二、〇〇〇円の料金で他所に預けていることが認められるけれども、本件事故による原告車の破損状況を保全するには民訴法三四三条以下に定める手続をとることができるわけであるし、かつ本件事案の内容に照らすと、それ以上の保全方法は必要でないと認められるので、原告が右措置のために要した出費を本件事故と相当因果関係のある損害とみなすことはできない。
四、被告の損害 計三六、七二〇円
(1) 被告車右前部破損修理費 二七、七二〇円
(≪証拠省略≫)
(2) 右修理期間中代車賃借料 九、〇〇〇円
被告主張のとおり(≪証拠省略≫)。
五、結論
(1) 本訴につき、
被告は原告に対し、九四、五八〇円の五〇パーセントにあたる四七、二九〇円およびこれに対する昭和四二年一二月二日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。
(2) 反訴につき、
原告は被告に対し、三六、七二〇円の五〇パーセントにあたる。一八、三六〇円およびこれに対する昭和四二年八月一二日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。
(3) よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷水央)